犬の出産 準備からお産の流れと産後のケア

産まれたばかりの子犬の写真

かけがえのない愛犬二世を残したいと考える方は少なくないでしょう。何世代にもわたり愛犬の血統を残している方もいます。犬は安産の代名詞ともなっていますが、小型犬の場合はそうとも言えません。また小型犬に限らず、出産には母親や胎児にさまざまなリスクが伴います。出産や新生児のお世話について正しく理解して適切に対処することが必要です。


<交配の適齢期>

健康な出産をするためには母体が健康でなければならないのは言うまでもありませんが、同時に母体が成熟して出産に十分な体力を備えていることも重要です。


1.小型犬の成熟

小型犬の場合、8カ月~10カ月頃に最初の生理がみられます。12カ月ほどで成犬の体格になりますが、まだ十分な成熟ではありません。犬の1歳は人間でいうと17歳程度の思春期に相当します。18カ月になると20歳程度となり、成熟を迎えます。


2.犬の出産適齢期

十分成熟していないと出産で母体に掛かる負荷に耐えられず、体調を壊したり死産になったりする可能性が高まるため、完全に成熟するまで交配するべきではありません。

出産は母体で胎児を育てるために相応の体力が必要になりますので、高齢になると体力の低下により健康な出産が難しくなってきます。小型犬の場合、6歳で人間の40歳程度に相当します。犬も人間同様、高齢出産はリスクが高まるため、6歳を超えた出産はお勧めできません。

望ましい出産適齢期は、以下の基準と考えるべきでしょう。

小型犬    18カ月~72カ月

犬のライフステージの表

<受胎と妊娠期間>

犬の妊娠期間は、受胎から63日が標準的ですが、母体の状態による個体差があり、数日前後することがあります。また、必ずしも交配した日に受胎するとは限りません。通常の交配は、適日を狙って1日おきに23回行います。体内の精子は、おおむね3日程度は受胎能力があるため、交配日から数日遅れて受胎することもあります。

したがって、出産予定日の算出は、胎児の生育状態をモニターしながら判断する必要があります。


 <犬の出産にかかる費用>

出産には、おおむね次のような費用が必要となります。


・交配料・・・・・・・・  5~10万円程度

 プロに依頼する場合、交配犬所有者に支払う交配手数料です。


・検査費用・・・・・・・  2~5万円程度

 適日を判断するための検査、胎児の状態を確認するためのレントゲンなどの必要な検査費用です。


・出産介助費用  ・・・・・  5~8万円程度

 動物病院やブリーダーに依頼した場合に必要な費用です(通常分娩の場合)。


・異常分娩の医療費 ・・・ 1~15万円程度

 陣痛微弱や帝王切開などの医療処置が必要な場合の費用です。


・用具やミルク代 ・・・・  1~3万円程度

 消毒用品、保温器具、母乳が出ない場合のミルク、授乳具などの費用です。


・血統証明書の登録費用 ・・ 1~2万円程度


出産にかかる費用のほとんどは、専門家に依頼した場合に必要となるものです。ご自身で行う場合にこれらの費用は掛かりませんが、愛犬の安全を考えて専門家の監修をお勧めします。


胎児のレントゲン写真

<出産の兆候とお産の流れ>

予定日の1週間前頃にレントゲンを撮り、胎児の頭数、頭から尾の根元までの長さを測り、おおむねの体重を把握します。

小型犬で、胎児が11cm以上に成長していれば、数日以内に出産となる可能性が高いといえます。

母体の体格により異なりますが、過大児であると判断した場合は帝王切開により計画出産を選択することもあります。この頃から、毎日2回程度の体重測定、体温測定を行います。出産の兆候として体温(直腸温)が0.51.0度下がり、また元の体温となる変化が見られます。

 

体温変化のグラフ

<犬の出産の準備>

出産の準備として、以下の用具を用意します。

・清潔なバスタオル、タオル(各23枚)

・カンシ、ハサミ

・産湯の容器

・消毒薬(イソジンやマキロンなど犬に安全なもの)

・タコ糸(へその緒を縛るため)

・出産のスペース(フェンスや大きめのサークルなど)

・通気性があり保温できるかご(子犬を一時的に入れるもの)

・保温ができるケージ(目隠しができるもの)

・安全な保温用具(ヒーター、電気アンカなど)

・室温計(ケージ内の温度管理)

・ドライヤー

・キッチンスケール(胎児の体重測定用)

 

出産が近付くと巣作りをする行動や少量の頻尿が見られます。うろうろと歩き回ったり、しきりに陰部を気にするようになります。これらの兆候が見られた場合は、間もなく出産が始まります。

カンシ、ヒーター、保存かごの写真

<普通分娩の流れ>

普通分娩の場合の段階は、以下のように進みます。


・第1ステージ

落ち着きが無くなり、舌を出してハアハアと呼吸が荒くなります。陣痛で震えが見られたり、まれに吐いたりすることもあります。

 

・第2ステージ

破水し透明な液体が出ます。胎児が産道へ降りて、おおむね30分以内に水袋が見えてきます。

 

・第3ステージ

羊膜に包まれた状態で胎児が生まれ、へその緒につながって胎盤が出てきます。

 

母体や胎児の状態により大きく個体差がありますが、標準的にはこの工程を繰り返し、第1子から順に出生が進みます。


<分娩の処置>

出産の際、母犬がへその緒を咬み切りますが、誤って胎児を傷つけることがあります。傷の状態によっては、致命傷となり、健康な胎児が死亡する例もあります。へその緒は咬み切らせずに人が、処置する方が望ましいでしょう。


手や処置に使う糸、鉗子、ハサミは、十分消毒し、感染予防に気を付けてください。

出生したら、胎児の羊膜を破って取り上げてください。胎盤が出てくる前に、胎児の臍から5mm程度の位置を糸で縛り止血します。止血した胎盤側のさらに5mm程度を切断します。その際、胎盤を取り出すためにへその緒を鉗子でつかみ、軽く引き出します。無理に強く引っ張ることは絶対にしないように気を付けて行います。


次に子犬を産湯に入れ、羊水を洗い流します。湯温は36度程度のひと肌に調節し、優しく全身を洗います。この時、口や鼻から水が入らないよう十分注意してください。肺に水分が入ると肺炎を起こして死亡することがあります。


清潔なタオルで全身の水気をふき取り、手早くドライヤーで乾かします。ドライヤーが熱すぎたり、冷たすぎて体温を奪うことが無いよう細心の注意が必要です。

この時、気管内の羊水を吐かせるため、背中を叩きながら口や鼻周りをテッシュペーパーで軽く押さえ、羊水が出なくなるのを確認します。大きな声で産声を上げているようなら、子犬を一時的にかごなどに入れて出産が終わるのを待ちます。入れるかごの室温は、3637度程度に調整してください。

母犬の出産を観察しながら、子犬が産まれるごとに手早く繰り返し行います。

ただし、各段階での異常をモニタリングし、異常を発見した場合は、適切な医療処置が必要となります。


<異常分娩の場合>

異常分娩は、主に以下の状態によって判断します。

・緑色の液体が陰部から出る。

・異常な出血。

・体温(直腸温)が39度以上。

・腐敗臭、悪臭がある。

・分娩後4時間を経過しても胎盤が出ない。

 

異常分娩の主な原因は、胎盤剥離、流産などで、胎児の頭数が多い場合は、栄養不足などが考えられます。また、胎盤が出ないままにしておくと子宮蓄膿症などの原因となることがあります。これらの症状が見られた場合は、獣医師の診断を受ける必要があります。


<難産の場合>

難産は、主に以下の状態によって判断します。

・体温変化後12時間以上経過しても分娩の兆候が見られない。

・破水して3時間以上経過しても胎児が見えない。

・不規則で弱い陣痛が3時間以上続く。

・規則的で強い陣痛が30分以上続く。

・水袋が見えてから2時間以上分娩しない。

 

難産は、小型犬に多い傾向があります。原因の75%は母体の状態によるもので、そのほとんどは子宮無力症によります。その他は、産道狭窄、子宮捻転などさまざまな原因があります。胎児による原因は、胎位異常、奇形、過大児、胎子死亡などによります。軽度な難産と診断された場合、カルシウムやオキシトシンなどの陣痛促進剤を投与します。重度の場合は、帝王切開で対処することになります。


<犬の帝王切開>

帝王切開の術式では、子宮内から胎児を摘出し、蘇生します。開腹手術となるためメスを入れることになり、神経や血管が集中している腹部の処置ですので、一定のリスクが伴います。難産の救済の場合、母体と胎児が弱っている可能性が高いため処置のスピードが重要です。理想的には、メスを入れてから10分以内に摘出します。

全身麻酔となるため、胎盤から胎児へ麻酔の影響が出ないように慎重にコントロールします。術式もできる限り母体の傷が小さくて済むような(小切開法)が望ましいのですが、子宮を体外に出さずに処置するため、難易度が高い手術となります。事前に獣医師との相談が必要でしょう。問題なく手術が終了すれば、1日の入院で帰宅できます。


<初期免疫を作る大切な初乳>

生まれてきた子犬には、出産から48時間以内の初乳を飲ませます。胎児が初乳を飲むことで母体から移行抗体(抗体/IgGなど)をもらって初期免疫を作ります。母犬は出産後すぐ初乳が出る場合と、しばらくたってから初乳が出るなど個体差があります。

初乳が出ない場合、子犬は初乳からの抗体を得られないため病原微生物に対して無防備の状態となります。生後48時間を経過すると子犬は移行抗体を受け取れなくなるため、特異的免疫グロブリン源を配合したミルクなどで補うとよいでしょう。母乳の出が悪い原因として妊娠中の栄養バランスやストレスが影響することがありますので、妊娠中のケアがとても大切です。


<乳幼児のお世話>

普通は出産するとすぐに母性が芽生え、子犬のお世話をし始めるようになりますが、まれに母性が芽生えず子犬に興味を示さなかったり、子犬に攻撃的になったりすることがあります。出産終了後は子犬に対する母性を確認するため、目を離さず観察してください。お世話をしない場合は、母子を別々のケージに入れて、3時間ごとに母乳を与えるように促します。その際も目を離さないように監督してください。


母犬が積極的に子犬のお世話をしているようであれば、母子一緒に目隠ししたケージで休ませます。ケージ内の室温は30度程度に調整します。キッチンスケールで、授乳前、授乳後の子犬の体重を測り、必ず増えていることを確認します。授乳後、陰部と肛門をティッシュペーパーなどで刺激し、排せつを促します。母乳が出ない場合は人工乳で代用します。

生後7日間は授乳を3時間ごとに繰り返し、8日目から6時間ごとにします。母性が芽生えない母犬も子犬との接触や授乳によって徐々に芽生えることがありますので、なるべく母子の接触の機会を作る方がいいでしょう。母犬の母性が芽生えないと、飼い主さんの負担はとても大変なことになります。それらの可能性も覚悟しておかなければなりません。


<離乳>

生後21日目からは段階的に離乳を開始します。50日目くらいでドライフードが食べられるようになるのがゴールです。産後30日頃から母乳の出が悪くなったり、子犬が大きくなって必要な栄養量が足らなくなってきます。しっかり離乳のプロセスを進め、子犬に食べる喜びを学習させましょう。

 

1.離乳期間のフードの与え方

母乳と併用しながらドッグフードに慣れさせるため、最初はパピーフードをミル引きして粉状にしたり、ウエットフードをぬるま湯で緩めのペースト状にしたりして与えます。粉ミルクを少量混ぜるなどするのもよいでしょう。フードに口を着けるように促し、少しずつ食べることに慣れさせていきます。

28日目くらいから、栄養補給は食べることを中心にします。フードを少し硬めの粘土状にして、134回に分けて口の中に入れて食べさせます。上あごに擦り付けるように指で口の中に入れてあげてください。始めは嫌がりますが、次第に自分から食べるようになります。1日の実食量は、ドライフード(乾燥状態)で子犬体重の5%が目安です。併せてこの段階から給水量にも十分な注意が必要です。

35日目頃から粒上のドライフードをぬるま湯(60度以下)で20分程度ふやかしたものを与えます。自分から食べるように促し、食べない場合は、口に入れてあげます。

42日頃から少し硬めにふやかしたものにします。この時も食べないようであれば、柔らかめのものを口に入れてあげます。

離乳のポイントは嫌がらせずに少しずつ慣れさせることですが、必要な栄養が取れるように十分な量を食べさせることはクリアしなければなりません。各段階とも毎日の体重測定により成長状態をモニタリングして、毎日確実に成長していることを確認することが必要です。この期間は新生児の時に次いで手間が掛かります。

<新生児の体調管理>

産まれた子犬はとてもナイーブですので、体調管理に気を付けることが重要です。新生児から生後60日程度までに一番多い体調不良の原因は、栄養不足による低血糖症、水分不足による脱水症、低体温症です。子犬にこれらの症状が出るのは管理者のヒューマンエラーです。毎日の体重管理、室温管理、水分量の管理、運動量など厳密な管理が必要です。

まれに新生子衰弱症候群を発現して亡くなってしまうケースがあります。症状としては、

・母乳を吸わない。

・鳴き続けたり動き回ったりする。

・パクパクと口を開け続ける。

・チアノーゼ(顔や口内が紫色)。

などが代表的です。原因は、成長不全や先天性の異常が考えられますが、明確には解明されていません。これらの症状は、生後48時間から7日以内にみられ、対処の方法もなくほとんどが亡くなってしまいます。低体重胎児の場合、発現率が高まります。


<犬の新生児のワクチン接種>

冬場に出産する場合、生後21日目と35日目に犬用3種混合鼻粘膜投与不活化ワクチンを投与します。このワクチンは、犬アデノウイルス(2型)感染症、犬パラインフルエンザおよび犬ボルデテラ感染症の発症予防となります。冬場は、パラインフルエンザやケンネルコフなどが流行しやすいための予防処置となります。

生後50日目と80日目に混合ワクチンの接種を行います。混合ワクチンは5種、9種など複数あり、適応する感染症範囲に違いがあります。市街地で飼育する場合は、6種を頻繁にアウトドアで自然環境に触れく機会が多ければ対応範囲の広い9種などを選択するといいでしょう。

ワクチンには、生ワクチンと不活性ワクチンがあります。いずれの場合も病原体を体内に入れて抗体を作るため、副作用が伴います。対応範囲が広ければ副作用の可能性も高まりますので、適切な範囲のワクチンを選択するのがいいでしょう。


1.混合ワクチンの対応する感染症

ジステンパー感染症          

この病気にかかった犬に接触したり、ウイルスが含まれた排泄物や空気によっても伝染します。最初は風邪に似た症状を見せ、体をだるそうにして咳や鼻水が出ます。やがて重症になると痙攣を起こし、死に至ります。


パルボウイルス感染症      

生後3カ月以内の子犬は心臓の筋肉が侵され、急に呼吸困難を起こして死亡することもあります。子犬がこの病気に感染すると食欲が減退して元気が無くなり、やがて激しい下痢と嘔吐がみられ、血便が出ます。


伝染性肝炎(アデノウイルス1型)             

子犬が突然死んでしまったり、高熱、食欲減退、嘔吐、下痢、血便、血尿があるなど症状はさまざまで、肝臓が腫れます。


伝染性肝炎(アデノウイルス2型)             

頑固な咳と発熱が続きます。重症になると、鼻水が出たり、白い泡を吐きます。


パラインフルエンザ          

乾いた咳や鼻水、扁桃炎などの症状が出ます。他の細菌やウイルスと混合感染すると症状が重くなります。


レプトスピラ感染症(黄疸出血型、カニコーラ型)   

症状は三つのタイプに分かれ、食欲が減退して元気が無くなり、血尿や血便がみられるものの、喉の粘膜などが黄色くなるもの、腎臓に障害(尿毒症)が現れるものがあります。          


コロナウイルス感染症      

食欲不振、嘔吐、下痢などの症状が起こります。パルボウイルスと合併すると症状が重くなり、死に至ることもあります。


その他の予防措置としては、内部寄生虫対策として定期的に虫下しを与える定期駆虫などが推奨されています。3カ月未満の幼齢犬は、元気そうに見えても成犬と比べて免疫や体力が弱いため、感染症や体調不良となる可能性が高く、十分な観察や予防措置を厳密に行う必要があります。


<産後の母犬のケア>

出産から授乳期は、母体に十分な栄養を取らせる必要があります。乳児に必要なたんぱく質やカルシウムが豊富なフードを選択し、通常よりも20%程度増量して与えましょう。体重の2.5%を目安としてください(ただし標準体型を基本として算出)。

 

1.胎盤に注意

胎児を出産した後、胎盤が胎児のへその緒につながった状態で出てきます。胎児を出産して間もなく自然に出てくるのが普通ですが、体内に残ることがあり、子宮の収縮とともに数日してから出てくることもあります。1週間程度しても出てこない場合は、獣医師の診察を受けておいた方がいいでしょう。出産後しばらくして発熱、嘔吐、食欲不振、元気が無いなどの症状が現れた場合も、直ちに診察を受けてください。最悪の場合は、摘出しなければならないケースもあります。

母犬が胎盤を食べようとすることがありますが、これは自然界で血液臭により外敵が寄ってくることを防ぐためと考えられています。胎盤を食べると嘔吐や下痢をすることもあるため、すぐに片付けてしまう方がいいでしょう。

 

2.産後のシャンプーやトリミング

シャンプーやトリミングは想像以上にストレスが掛かります。ストレスによって母乳が止まってしまうことがあるため、離乳が完了するまでは控えましょう。子育て中は長期間にわたりシャンプーができないため、妊娠中の安定期(交配日から45日頃)に短めにトリミングしておくといいでしょう。

出産は種の保存のための自然な営みです。そして愛犬の出産は、血を分けた二世との素晴らしい出会いがあります。しかし、健全な出産には健康に生まれてくるための産前産後の健康管理や妊娠中のケア、子犬のお世話など苦労や心配が伴います。そして産まれた子犬の生涯の幸せに責任を持たなければなりません。愛犬の出産は十分な覚悟と準備が必要であることを心得て良く考えなければなりません。


また、今回紹介した出産の知識は標準的なケースにとどまります。母体の状態や体質、母犬の性質などの違いにより大きく状況が異なります。真剣に二世を考えるなら専門家に相談した上で、健康な出産を目指していただくことをお勧めします。

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